ねぎイヴェ

そうだ、別れのときはいつも雨。
5年前のあの日も、君が俺に背をそむけたあの日も、雨だった。
君は別れの理由を語ろうとしなかった。
「もう、会えなくなっちゃった」
そうせざるを得なかった君の理由など考えもせず、
「最後は、一緒に、笑って」
そう言い残して去っていった君を、俺は恨んだ。
ずっと一緒にいようって言ったじゃないか。
ずっと一緒に泣こうって言ったじゃないか。
ずっと一緒に笑おうって言ったじゃないか。
時は無常にも、そんな気持ちを風化させていた。
そんなある日、非通知の電話が訪れた。
「もしもし、あんた?」
「え?どちら様でしょうか?」
「そんなのどーでもいいの、いい?一回しか言わないから、よく聞きなさい」
ぶっきら棒な物言いとその抑制に、懐かしさが込み上げた。
「か、神田、か?」
「・・・いい?一回しか言わないから」
「なんだよいったい」
「あんたに葉書を出したの。そこに書いてある時間にその場所に来ること。」
「は?なんだ?」
「・・・これが最後なんだから・・・」
「最後?」
通話が途切れた。
翌日、一枚の葉書が届いた。
そこには、彼女が言うように時間と場所が記されていた。
突然の電話、彼女の伝言、それを伝えるときの抑制に、俺は妙な不安を抱いていた。
何かが、起きる?
5年前の別れに似た哀しみが、またやって来るのではないか、と。
身震いがした。
それでも、俺はそこに行かなければならない気がした。
あの日、君を追いかけて行けなかった自分に、君を恨むことしかできなかった自分に向き合うために。


俺は、とあるホールにいた。
妙な予感を振り払いながら、座席に腰掛け、目を閉じた。
5年前のことが思い出される。
どうして別れなければいけなかったのか?
どうして会えなくなってしまったのか?
その理由は?
何か理由があるはずだったんだ。
そう、おそらく、今日ここでその答えを知ることになるんだろう。
「・・・これが最後なんだから・・・」
最後?
不安にさせる言葉。
何が最後だと言うんだ。
歓声が響き渡り、目が覚めた。
視線の先に、君がいた。
あの日とまったく同じ、決意に満ちた表情で、君はそこに立っていた。
驚きはしなかった。
そうだ、そこにいると、俺は知っていた。
なぜ?
君は詠った。
幸せの材料。
輝く君へ
そこには笑顔しかなかった。
光の中でくっきりと浮かんだ君の姿が、光に包まれ消え入りそうになる。
「・・・これが最後なんだから・・・」
消える。
消えてしまう。
今日ここで消えてしまうんだ。
それは誰にもとめられない運命。
必然という物語。
5年前俺のもとを去った理由。
「最後は、一緒に、笑って」
君の最後の言葉。
俺は君の名を呼ぶ。
君の名を消さないために、あらゆるものの上に君の名を刻む。
君がいた証を、俺は叫ぶ。
君が消えてしまう前に。


「俺とパクティオー!!!!!!!!!」